刃径10μmのエンドミルを用いた、直彫りによる微細切削加工

微細切削加工

高付加価値の技術が早急に求められている国内製造業。小型化・軽量化が進む情報端末機器の製造手法としてエッチングやビーム加工があげられますが、問題点も存在しています。この問題点を改善する技術として、直彫りによる微細切削加工(以下マイクロ加工)が注目されています。日進工具では、2005年に刃径10μmのエンドミル「マイクロエッジ」を開発し、世界初の量産化に成功しました。

今回は、「マイクロ加工の利点」と「日進工具のマイクロ工具シリーズ」について、事例を交えてご紹介いたします。

マイクロ加工の利点

日進工具では、マイクロ加工領域を図1のように定義しています。一般加工(単位:mm)は、ますます生産拠点の海外シフトが激しくなることが予測され、国内生産で採算をとることは難しくなってきています。それに対し、超精密加工(単位:nm)は今後さらに注目されていく分野ですが、そのための設備投資や加工技術、測定機など、技術を確立するためには莫大な費用がかかってしまうといった問題があります。そこで、日進工具では両社の中間にある領域に注目し、その領域を「マイクロ加工」と位置づけました。

マイクロ加工(単位:μm)は、微細加工分野の中でも高速加工機や周辺機器を使い、一般加工よりも高精度で加工することが可能です。設備費用も超精密加工に比べ安く抑えられるという利点があります。

図1
図1 マイクロ加工の領域

マイクロ工具シリーズとは?

開発初期は非常に困難なマイクロ工具の製作でしたが、独自の開発により研削技術、工具素材などの面からあらゆる可能性を試し、マイクロ工具を安定した品質で量産することに成功しました。これらのマイクロ工具の開発により、高硬度材や複雑な加工形状などに対応が可能となりました。(表1、図2、図3)

表1
表1 マイクロ工具シリーズのラインナップ一覧
図2
図2 NSME100 Ф10μmの外観
図3
図3 SMB120 R0.05の外観

マイクロ工具シリーズの加工事例

「NSME230」によるポケット加工

表2
表2 条件表

NSME230 Ф50μmにて、被削材SUS304に対しポケット加工を行いました。(表2は切削条件、図4は加工形状)加工サイズX100×Y100×Z40[μm]のポケットを500個(40時間)加工したところ、1個目と500個目の加工精度の誤差が±2μm以内、底面の面粗さRz0.8μm(測定機:KEYENCE製VK9500)と良好な数値を示しました。また、工具も折損することなく1本で約40時間の加工を行うことが出来ました。以上の結果から長時間においても良好な工具性能を確認できます。

図4
図4 ポケット加工の外観写真

「NSME230/NSMB100」によるスケールモデル事例

表3
表2 条件表(NSMB100)

被削材SUS304に対し、図5のような加工形状のスケール溝部をNSME230 Ф10μm、Ф30μm、Ф90μmで加工し、文字彫り加工はNSMB100 R0.02を使用し等高線加工を行いました。(表3は切削条件。ここでは文字彫り加工のみ詳細を掲載)

文字部分の狙い深さ10μmに対し実加工深さ9μm、底面の面粗さRz0.2μmと高精度な数値を得ることが出来ました。また、14時間加工後の工具を観察したところ、磨耗後退量は、1.4μmと非常に小さい数値でした。以上の結果は、SUS304において有効性を示す結果と考えます。

図5
図5 スケールモデルの外観写真

「NSMD-M」によるマシナブルセラミックス穴あけ加工

表4
表4 条件表

NSMD-M Ф50μm×0.5mmで被削材マシナブルセラミックスに対し貫通穴あけ加工を行いました。(表4は切削条件、図6は加工穴)

1本の工具で1,000穴(31時間)加工完了し、穴の加工精度の誤差が、1穴目~1,000穴目で±1μm以内と良好でした。また、加工後の摩擦状態を観察しても引き続き加工可能な状態でした。この結果から、マシナブルセラミックスに対して安定した穴あけ加工を実現できることがわかります。

図6
図6 マシナブルセラミックス穴あけ加工(加工穴SEM写真)

この3つの加工事例にて、様々な材料や加工形状に対して高精度・高性能な加工での可能性を示すことができました。今後も日進工具では、微細領域の切削加工の可能性をさらに広げるため、付加価値のある工具開発と加工技術の構築を行っていきます。

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