5軸加工のメリットと課題

今後のモノづくりの動向

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背景

皆さんがお持ちのスマートフォンやタブレット端末のように、昨今では、小さくて軽い、高機能といった製品が好まれるようになっています。
特に、自動車では、コンパクトな車でも室内空間の拡大、低燃費はすでに当たり前になっており、今では衝突回避などの安全回避機能が標準装備される時代になりました。
これらの機能は多くのセンサーやカメラが使われており、小型で精密な部品が多数使われています。
このような背景から、部品の小型化・複雑化がますます広がっていくであろうと考えており、その過程において、5軸加工や複合加工の加工方法によるモノづくりが益々行われるものと思われます。

今回は、その5軸加工による深彫り加工について、3軸加工と比較しながら記述していきたいと思います。


Ⅰ.5軸加工のメリット

➀有効長、突出し長が短い工具で加工ができる

例えば、下図のようなモデルを加工する場合、どのような加工工程を考えますか?


電極ワークサンプルイメージ
被削材 NAK80 40HRC
加工サイズ 40×40mm
最大加工深さ 15mm
コーナー R1.5
クーラント オイルミスト


3軸加工において、工具を選定し荒取り加工を行う場合は、


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※クリックする事で拡大できます(一部の数値を四捨五入しています)

加工方法は様々あると思いますが、このような感じでしょうか。
最大加工深さ15mmを考え、有効長違いの工具を使用して加工時間を早め、加工精度を高める工程が必要かと思われます。
この場合、加工時間は約5時間16分となります。

では次に、5軸加工機を使った場合はどうなるでしょうか。
図のように、傾斜軸45°固定の同時4軸加工を想定した加工工程は、


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比較してみると5軸機では、有効長と突出し長を抑えることで能率(切削条件)が上がり、加工時間も大幅に短縮することができました。
また、有効長が短い(突出し長が短い)ということは、『コラム 工具の学び舎:工具のサイズ選定を知る』でも記述した通り、工具剛性も上がりますので、加工精度の向上にもつながります。

次に、3軸加工、5軸加工において仕上げ加工まで行い、寸法測定比較をしてみます。

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※クリックする事で拡大できます(一部の数値を四捨五入しています)

工具剛性の違いにより、切削条件に大きな影響を与え、その結果、加工時間の差が大きくなることがわかると思います。

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測定の結果、3軸加工では仕上げ代の管理や工具の倒れ、振動などが影響して、狙い寸法からは大きく外れてしまいましたが、5軸加工では工具の倒れや振動が小さいため、安定した加工精度を維持することができています。
今回のケースでは剛性の高い工具を使用した5軸加工が有利と言えます。
尚、今回のようなケースで3軸加工での寸法誤差を少なくするためには、荒取り加工においてゼロカットを入れるなどの方法で仕上げ代の管理を行うことで改善ができます。

②加工位置(カットポイント)を任意に選べる。

  ボール工具加工

上図のような加工でボールエンドミルを使用して加工する場合、工具の先端、つまり切削速度ゼロのポイントで加工を行うことになってしまい、「面粗度が出ない」などの課題に頭を悩ます事が多いのではないでしょうか。
これを回避するには、5軸加工機を使用したり、ワークを傾けて加工をしたりすることになりますが、5軸加工で傾斜角を付けて加工を行う場合、どのカットポイントで加工するのが適しているのでしょうか。
傾斜0°~65°の角度違いで、面質が安定するところを探ります。



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グラフの通り、傾斜角度8°を超えたあたりから、面粗さ(Rz)が安定しているのがわかります。ワークとの干渉等を考慮すると、10°~30°の傾斜角(カットポイント)で加工を行うのが有効ではないでしょうか。



Ⅱ.今後の課題

深彫り加工における3軸加工と5軸加工では、加工時間、加工精度、加工面質において5軸加工が良い結果となりました。
しかし、急に5軸機を導入し加工を行うわけにもいかず、また、今後解決しなくてはいけない問題も多くあると感じています。
実際に今回のテストを行う上でも実感した問題とは、

データ作成時間が3軸加工に比べて長くなる

今までと違ったアプローチでの加工になりますので、不慣れな部分や理解不足の点もあり、かなりの時間を費やしてしまいました。
その要因として、軸の設定と干渉チェックに時間がかかるという問題があります。
今回のテスト加工形状のような、いわゆる金型で言うコア側は比較的干渉回避はしやすいですが、キャビティ側のように加工形状が囲われているようなものだと、傾斜角の設定は非常にシビアになり、干渉チェックを繰り返し、作業時間が増える原因にもなります。


干渉チェック

これまで記述した通り、深彫り加工では5軸加工を行うことで有効長、突出し長を短く設定する事で能率が上がり加工時間が短くなる、加工精度が向上することが分かって頂けたと思います。 小径工具になればなるほど、その効果は大きいと考えます。 今後は「5軸加工において高精度で高能率な加工を実現する小径エンドミル」を作る上で我々も5軸加工についての知識を更に深め、5軸加工のメリットや課題をクリアする加工技術を積み上げ、お客様が加工しやすい、使いやすい5軸加工の提案とお客様に満足していただける製品開発が出来るように努めていきます。

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