切削加工を行う上でバリが問題となるケースは、金型メーカー様・量産部品加工メーカー様問わず抱えられていると思います。微細形状で発生したバリの除去や、バリの大小を基準として加工製品がNGとなるケース、工具交換の目安(寿命判定)となるケース等々、バリの発生が加工製品の良し悪しまた工具自体を判定する基準ともなります。その為、バリを後加工(別加工)で行うためのツールもたくさんあり、専業メーカー様もある事から、どのユーザー様にとりましても非常に重要な部分といえるでしょう。そこで弊社が製造しているエンドミルが関連する、工具形状・切削条件・加工方法の3つの観点から、 “バリの発生原因とその対策” を基本的な部分を多く踏まえ、全3回にわたりお届けします。
① 高きバリへの挑戦: 工具編(エンドミル設計とバリの関係)
② 厚きバリへの挑戦: 切削条件編(切り込み量とバリの関係)
③ 硬きバリへの挑戦: 加工方法編(加工方法によるバリのコントロール)
① 高きバリへの挑戦:工具編
エンドミル各部の名称について
下記の図は、エンドミルにおける各部の名称です。
バリの発生量は、エンドミルの形状によって大きく左右されます。特に切れ味(切削性)に作用する箇所が、バリの発生量へ多大に影響します。
切れ味へ直結する箇所としては、 “ネジレ角(θ)” ・ “外周スクイ角” の2箇所となります。
スクイ角について
スクイ角はエンドミルの切れ味(切削性)に大きく影響し、
一般的に被削材に併せた形状となっております。
非鉄(アルミ・樹脂)等の加工には | 強いポジティブなスクイ角 |
一般鋼材には | 5°~8° 位のポジティブなスクイ角 |
硬い被削材(焼き入れ鋼)には | 弱いポジティブ~強いネガティブなスクイ角 |
スクイ角の違いによるバリ量
スクイ角の違う工具2種類にてテスト加工を行い、バリの発生量の違いを観察しました。
図3左側の写真は、スクイ角がポジティブ形状(MSE445)のエンドミルで加工を行ったものとなり、一方右側はスクイ角がネガティブ形状(MHD445)のエンドミルで加工を行ったものとなります。
このように、スクイ角の違いはバリの発生量に大きく影響を与えます。
ネジレ角について
ネジレ角の違いは工具の各性能に大きく影響します
25°ネジレ | キー溝加工などには倒れ・うねりの少ない25° ネジレが有効。 |
30°ネジレ | 溝・側面加工の両方に対応可能で最も汎用的。 |
35° ~ 45°ネジレ | ネジレ角が強くなるに従い、切れ味が良く、ビビリが発生しにくい。刃長を長くする事が可能。 |
45°ネジレ | 焼き入れ鋼、難削材の加工に有効。 |
ネジレ角の違いによるバリ量
ネジレ角の違う工具2種類にてテスト加工を行い、バリの発生量の違いを観察しました。
図4左側の写真は、ネジレ角が45°(MSE445)のエンドミルで加工を行ったものとなり、一方右側はネジレ角が30°(MSE430)のエンドミルで加工を行ったものとなります。
このようにネジレ角の違いは、エンドミルの切れ味に影響を与え、バリの発生量に大きく影響を与えます。
コーティングの種類と活用
コーティングの種類とその特徴、及び効果を記載します。
種類 | TiN | TiCN | TiAlN | CrN | DLC | ダイヤモンド コーティング |
無限 コーティング |
無限コーティングプレミアム |
色調 | 金 | 青灰 | 暗紫 | 灰 | 黒 干渉色 |
黒 | 暗紫 | 青灰 |
硬度 (Hv) |
2,300 | 2,700 | 2,800 | 2,000 | ~6,000 | ~10,000 | 3,400 | 3,600 |
膜厚 (μm) |
1~4 | 1~4 | 1~4 | 3~8 | ~2 | 10~20 | 1~4 | 1~4 |
耐酸化温度(℃) | 600 | 400 | 800 | 700 | 450 | 600 | 1,100 | 1,300 |
TiN・TiCN | ||
硬度が高い | → | 母材を摩耗から守る |
鉄類との親和性が低い | → | 母材が切粉と結合するのを防ぐ |
構成刃先ができにくい | → | チッピングを回避する |
TiAlN | ||
耐熱性が高い | → | 上記3点に加えて熱から母材を保護する |
CrN | ||
銅類との親和性が低い | → | 銅加工用に適する |
DLC | ||
硬度が高く摩擦係数が低い | → | アルミなど非鉄用に使用される |
コーティングは工具の損傷を軽減する!
工具摩耗
摩耗の進行や、異常摩耗(チッピング・欠損など)により、バリは大きくなる!
工具摩耗によるバリの量
まとめ
エンドミルの形状、特にネジレ角・スクイ角によるバリの発生量への影響。また工具の損傷・摩耗を抑制する為の被削材にあわせたコーティング各種。いずれも非常に基本的な要素となりますが、それゆえ見落としがちな部分でもあります。 バリの抑制に苦労されているケースや、発生量が多く後加工のツールにおいても除去に苦労をされているケース、是非一度お使いのエンドミルが現在の被削材に適しているかご確認をされてはいかがでしょうか。