高精度加工のポイント
高精度な加工を行う上で、倒れの抑制をいかにして行うか非常に大きなポイントといえます。倒れは工具形状の影響も大きく、テーパーネック形状や刃長・有効長の短い形状を採用する事でも工具自体の剛性があがり、改善が図れます。
今回は工具形状による対策では無く、ツールパスの改善から倒れを抑制した事例をご紹介します。
工具の倒れ
テストケースとして2枚刃ロングネックボールエンドミルを使用した事例となります。通常の等高線加工においてはイメージ図の様な状況となり、加工深さ(壁部高さ)が深くなるに連れ、段階的に倒れが大きくなっていきます。
加工形状と切削条件と荒取り加工パターン(ツールパス:加工パターン①)
下図の形状に対して荒取り加工を行い、工具の倒れがどの程度発生するかテストを実施。3mm幅の箇所における一定深さ毎(3mm刻み)の幅と倒れ量を測定しました。
テスト結果
狙い値 2.94mm に対する加工誤差は形状の深さに比例し大きくなり、壁部の倒れは深さ 0mm を基準として最大 0.015mm の倒れが発生。また溝幅は最大 0.065mm の誤差が発生しました。
溝部:深さ 3mm 毎での測定(荒取り工程では狙い値 2.94mm)
加工深さ(mm) | 加工誤差(mm) 加工パターン① |
---|---|
0 | 0.035 |
-3 | 0.045 |
-6 | 0.054 |
-9 | 0.065 |
ツールパスによる工夫
通常の等高線荒取り加工においては階段状に加工誤差が大きくなっていき、その後中仕上げ加工を行なったとしても取り残しによる影響は残ります。荒取り加工において切り込み量を極小とする事で切削負荷を小さくし、倒れを防ぐという方法も考えられますが、加工時間が劇的に伸びてしまいます。そこでツールパスの工夫により加工時間への影響を最小とし、さらに加工精度をあげるツールパスを検討、同様のテストを実施しました。
加工パターン②
最終平面ピッチ2回 & 送り速度 減速
最終平面直前に指定のピッチ・指定の回数・指定の送り速度を設定する事ができるCAMの機能を使用しました。
加工パターン③
最終平面ピッチ2回 & 送り速度 減速 + ゼロカットパス
上記加工パターン② にゼロカットを追加したパターンとなります。
荒取り加工パターン ②・③ テスト結果と比較
加工深さ(mm) | 加工パターン | ||
---|---|---|---|
① | ② | ③ | |
0 | 0.035 | 0.015 | 0.010 |
-3 | 0.045 | 0.021 | 0.013 |
-6 | 0.054 | 0.025 | 0.014 |
-9 | 0.065 | 0.029 | 0.015 |
最終平面ピッチおよびゼロカットの効果が非常に高いという事がテスト結果から得られました。以下に荒取り加工における、加工時間・壁の倒れ量・加工誤差をまとめました。
最終平面ピッチ2回、更には減速、ゼロカットのツールパスを設けている為、今回の加工形状において加工時間は約1.5倍に伸びておりますが、加工精度は大きく改善する事ができました。仮に切り込み量を切削抵抗による倒れが少ないレベルまでに下げた場合、加工時間は膨大な時間となっていたと推察されます。
まとめ
ツールパスによる工夫で、壁部の倒れ量、更には加工精度にも影響を大きく及ぼす事がお分りいただけたと思います。ここで更に中仕上げ加工・仕上げ加工においても同様に3パターンのツールパスを比較し、仕上げ加工まで行った状態でどの程度倒れ量と加工精度に差が現れたのかをご覧ください。
荒取り加工で発生した倒れが、その後の工程でも取りきれず、加工パターン①においては特に仕上げ加工工程を終えた後でも倒れ量および加工誤差が大きい状態でした。壁際での加工負荷を考慮したツールパスの選択、更には荒取り加工から倒れ量および加工誤差の抑制を意識する事が、高精度な加工を実現する方法といえます。また今回は勾配なし、立ち壁での事例をご紹介いたしましたが、勾配があるケースにおいては、テーパーネック工具の採用と今回のツールパスにより、更に高精度な加工を実現する事が可能と考えます。