極小径エンドミルにおける折損対策と加工の安定化
身近にある製品のダウンサイジングが進む中、切削工具も部品の微細化に追従して極小径サイズの工具を使用される機会が増えてきております。しかしながら極小径サイズを使用する中、剛性不足または工具寿命から折損トラブルに直面する場合があります。兼ねてより小径サイズに特化してまいりました弊社が、テスト加工時に実施していた例をトラブル対策のご参考としていただければと思います。
どの様な加工工程を設定しますか?
被削材:PD613(60HRC)
ポケットサイズ:1mm×1mm×深さ1mm
荒取り加工のスタートとしてボールエンドミル R0.3 を使用し、仕上げ加工でボールエンドミル R0.1 を使用するとした場合、どの様な加工工程および工具サイズの選定をされますか?
今回は下記の3つケースに於いてテストを実施し、仕上げ工具における加工完了数を比較しました。取り残し加工の工程を荒取り加工と仕上げ加工の間に設定することで、仕上げ加工用の工具にどの様に影響を与えるのか、ぜひご覧ください。
テストケース
# | 荒取り | (取り残し) | 仕上げ |
---|---|---|---|
テスト1 | R0.3 | ー | R0.1 |
テスト2 | R0.3 | R0.2 | R0.1 |
テスト3 | R0.3 | R0.15 | R0.1 |
テスト1
●荒取り加工 ボールエンドミル R0.3
●仕上げ加工 ボールエンドミル R0.1
1個目 | ||
---|---|---|
5個目 | ||
5個目で折損 加工時間 ポケット1個:29分 |
テスト2
●荒取り加工 ボールエンドミル R0.3
●取り残し加工 ボールエンドミル R0.2
●仕上げ加工 ボールエンドミル R0.1
1個目 | ||
---|---|---|
5個目 | ||
10個目 | ||
12個目 | ||
12個目で折損 加工時間 ポケット1個:33分 |
テスト3
●荒取り加工 ボールエンドミル R0.3
●取り残し加工 ボールエンドミル R0.15
●仕上げ加工 ボールエンドミル R0.1
1個目 | ||
---|---|---|
5個目 | ||
10個目 | ||
12個目 | ||
15個目 | ||
20個目 | 20個目で折損 加工時間 ポケット1個:37分 |
取り残し加工工程を設定する事で、仕上げ加工における工具寿命の向上と安定化がはかれました。工具サイズ選択に於いても、今回 R0.2 と R0.15 でポケット形状の加工完了数が11個と19個と、約1.7倍、取り残し加工工程無しとの比較となると、4.75倍と非常に大きな差となっております。更には取り残し加工において仕上げ工具サイズに近いサイズの選択・設定する事で、より仕上げ加工の工具寿命を伸ばすことが確認できました。
切削条件
加工工程 | 荒取り | 仕上げ | |
---|---|---|---|
使用工具 | MRBH230 R0.3×1.5ℓ | MRBH230 R0.1×1.5ℓ | |
被削材 | PD613(60HRC) | ||
切削条件 | 回転数 n(min-1) |
40,000 | 40,000 |
送り Vf(mm/min) |
150 | 120 | |
切り込み量 ap(mm) |
0.01 | 0.002 | |
切り込み量 ae(mm) |
0.02 | 0.003 | |
加工時間 | 11分26秒 | 17分30秒 | |
切削方向 | ダウンカット | ||
クーラント | オイルミスト | ||
ツールパス |
取り残し工程
加工工程 | 取り残し R0.2 | 取り残し R0.15 | |
---|---|---|---|
使用工具 | MRBH230 R0.2×1.5ℓ | MRBH230 R0.15×1.5ℓ | |
被削材 | PD613(60HRC) | ||
切削条件 | 回転数 n(min-1) |
40,000 | 40,000 |
送り Vf(mm/min) |
150 | 150 | |
切り込み量 ap(mm) |
0.01 | 0.003 | |
切り込み量 ae(mm) |
0.02 | 0.005 | |
加工時間 | 4分 | 7分50秒 | |
切削方向 | ダウンカット | ||
クーラント | オイルミスト | ||
ツールパス |
まとめ
荒取り | ボールエンドミル R0.3mm | ||
---|---|---|---|
仕上げ | ボールエンドミル R0.1mm | ||
テスト1 | テスト2 | テスト3 | |
取り残し | ー | 有り R0.2mm |
有り R0.15mm |
仕上げ加工工具による 加工完了数 |
4 | 11 | 19 |
極小径サイズの工具を使用する際の問題として、摩耗や過負荷による折損トラブルが挙げられます。性能の違う工具を選定し直す事も重要であるとは思いますが、まずは加工工程を見直してみてはいかがでしょうか。
今回の事例は仕上げ加工に使用する工具の寿命向上と安定化を目標とした結果、仕上げ加工工程における負荷を最小限にする加工工程(工具サイズの選定)の設定をという考えに至りました。工程が増える事によって加工時間が伸びてしまう事とはなりますが、折損トラブルが発生し工具交換等の段取りが増える事までを含めるといかがでしょうか。トラブルを避け、安定的に加工を行える事を第一と考えられる場合も多いのではないでしょうか。